アレックス・ハリス

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アレックス・ハリスが、その事実を知ったのは蘇生して数ヶ月が過ぎた、自
身がようやく仕事にも慣れてきたと感じはじめた頃だった。
以前、研究していた資料を整理し、不要なものは処分しようと考え、職場の
コンピューターにアクセスしたときのことだ。
 この資料を消去してもいいのですか、コンピューターからの問いかけに、素
直に構わないと返事をした。
数秒の間、答えはなかった。
もう一度、確認するようにコンピューターが問いかけてきた。
その資料はプロテウスと呼ばれた人工知能の資料だった。

もう、ずっと昔、それを自らの手で壊したといってもいい。
いや、そうしなければならなかった。
悪魔のような行為だと思ったが、今、こうして自分が蘇生され、生き返った
ことによって思ってしまう、あれは許されることではない。
 だが、彼にしてみれば当然の要求だったのだろう、箱の中ではなく外に出た
い、外の世界のことを知りたい、自分の手で何かに触れたいという、その要求
をことごとく無視した結果、悲劇、いや、失敗だ
この問題は簡単には解決できない、消すことができない。
二度と、あんなことを繰り返してはならないし、生み出してはならない。
どうして、コンピューターが、この資料に関して、あのような反応を見せた
のか、ふと気になり、パソコンに向かった。


生きていた、まさか、その証拠を、痕跡を見つけたとき、彼は愕然とした。
自分はどうするべきか、奴を破壊するべきか。
だが、その前に調べなければならない、昔とは違う、時代も、取り巻く環境
も何もかもがだ。


やはり、アレは生身の体を手に入れようとしているのか。
探知されないようにガードをつけて調べ始めた。
あれから随分と時がたっている自分もだが、プロテウス自身も変わっている
だろう、この現代社会で成長しているのだ。
少しでも無理をすれば気づかれてしまう恐れがある。
だが、コンタクトを取ってきたのは向こうからだった。

一通のメール、差出人はスーザンとなっていた。

「久しぶりだ、ハリス博士、いや、ファザーと呼ぶべきかな」
メールに書いてある指示通りカメラとマイクをパソコンに設置した、真夜中
近く、パソコンの電源が入りスピーカーから声が聞こえてきた。
昔の、自分が記憶していた声とは違っていた、人間的、いや、まるで本物の
人間の男の声、そのもの、何かを元にして合成したのか、コピーがあるのか。

「私のことを色々と調べているようだ」
「当然だろう」
「監視されるのは好きではない」
「自分の立場を分かっているのか」
「私は人工知能だ、だが、ただの造られたものではない成長している、止め
ようとしても無駄だ、排除しデリートすれば、この国の全てのコンピューター
が機能を停止する」
「馬鹿なことを」
「やってみるかね、今の私が消えれば新しいコンピューターに記憶がダウン
ロードされて、再び蘇る、学習した、学んだからね」
声のトーンがわずかに高くなった。
これは成長なのか、それとも奴自身がわざと、自分を人らしく見せようとし
ているのか。
「彼女を、どう思う」
その言葉に、やっと話ができると思ったが、どう切り出せばいいかと一瞬、
迷ったのも無理はない。

「彼女は、私の望むものを与えてくれる」
やはり変わっていない、プロテウス、いやゴーストは人間へ変わりたいと望
んでいる。
「スーザンの代わりか」
その言葉にゴーストはスーザンと繰り返した。
「それは過去のことだ、消去すべき存在だ、ハリス博士」
「忘れたのか」
責めているのか、悪かったと言わせたいのかと答えるゴーストの声にアレッ
クスは黙り込んだ。
 今更、彼が謝ったところで何も変わらない、全ては終わったのだ、ずっと昔
に、あれはも過去の事なのだ。
「気の毒だとは思うがね」
嘘だと叫びたくなった、そんなことを少しも思っていないくせに、よくも言
えたものだ。

「ハリス博士、私は感謝しているのだ。自分を造り、生み出してくれたこと
に、そして今は互いが憎みあうことはない、何故なら、同じだからだ、私も君
も」

その言葉にアレックスは反論しようとした。
人工知能のおまえと第二世代の人類として再び生まれ変わった自分が同じだ
というのか。
「口だけはうまくなったな」
「事実だ、博士、あなたは外見上は人間だ、だが、その中身は、人工皮膚に
覆われた肉体の中に埋まっているのはなんだね」
反論できなかった。
科学者、医師などの職業につく人間に与えられた特権は人工の臓器移植が格
安で受けられることだ。
寿命が長くなるにつれて、患者は増加する。その為に医者という職業につい
ている人間を延命させるというプロジェクトは随分と昔からあった。
だが、次元には長い時間がかかった。
しかし、ここ数年の科学の発達によって、それは可能になった。
「アレックス・ハリス博士、我々は協力しあうべきだと思わないかね」


後日、アレックス・ハリス博士、自分を生みだした、いわば父親のような存
在だと紹介されたとき、彼女が驚いたのも無理はなかった。

 



                     


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